エカテリーナを落札したのは、ぎょろりと目の落ち窪んだ不気味な男だった。白衣とその凶相に、魔界の皇女は見覚えがあった。
「ノーティス……」
「今はドクター・ノーティスと呼んで頂けますかな」
ここは郊外にある大きな屋敷の一室。白衣の男はエカテリーナに椅子を勧め、慇懃な仕草で紅茶を勧めるが、手をつける気にはならなかった。
「そう構えないで頂けるとありがたいのですがね。私はもう貴女に恨みなど持っていない」
果たして本当だろうか。彼は元魔族で、エカテリーナを騙して不当な契約を持ちかけてきた男だった。無論、彼女はそれを見抜き、裏切りの罰として彼の魔力の大半を取り上げ、魔界から放逐したのだ。
普通に考えて、恨んでいないわけはない。
「あのバーリンドンとかいう人間の罠にはまってしまったようですが、貴女は魔界でも有数の高位魔族。その魔力は私にとっても魅力的なのですよ」
「わたくしをどのように利用するつもりかしら、ドクター?」
「確かにただ信用しろと言っても難しいですな。では」
ノーティスがぱちりと指を鳴らすと、エカテリーナを隷属させていた首輪から力が抜け、首から外れた。
驚くエカテリーナの前に腰を下ろすと、同じポットから注いだ紅茶を啜る。少しためらってから、エカテリーナはカップに口をつけた。
「それで……あなたは今何をしてらっしゃるのかしら。他の魔物の気配を感じるのですけれど」
「さすがに敏感ですな。私は今、魔物ブリーダーをしておりましてな。新種の魔物を生み出す研究をしているのですよ……」
ごうん、と機械音と共に壁の一部が動き出す。そこから溢れ出る強烈な獣臭にエカテリーナは顔をしかめた。
「これは……!」
咄嗟に身構えるエカテリーナの背後で、ドクター・ノーティスは平然とドアに向かいかけている。
「ふふふ、ではごゆっくり」
「ノーティスッ!?」
ハッと振り返ると、白衣の男は部屋を出て扉を閉めるところ。魔界の皇女は攻撃のための魔力を高めようと手をかざすが、何も起こらない。
「ッッ!」
「ここは魔物を研究する施設と言ったでしょう……建物全体が魔力封じの効果を持つのですよ。隷属の首輪を外そうとも、貴女の魔力は使えない」
グルルルルル……壁に開いた穴の奥から獣の唸り声が聞こえる。のっそりと現れたのは真紅の毛皮。ライオンの成獣よりも巨大なそれは、四つの目を持つ魔獣だった。
「どういうつもりかしら……まさかわたくしをこいつの餌に……」
だが、閉ざされた扉の向こうで白衣の男はそれを否定した。
「大丈夫、そいつは確かに興奮しているが、貴女を餌にしようというんじゃない。私があらかじめ発情薬を投与しているからね」
「は、発情!?」
ハッと魔獣の黄色い目を見て、エカテリーナは悟った。このケダモノは彼女を餌ではなく交尾の相手として見ている。自分の子種を注ぎ込んで孕ませようとしているのだと。
「い、いや……ッ」
思わず後ずさりしようとしても扉は閉ざされ、逃げ場所はどこにもない。しかも魔力を封じられた状態では、エカテリーナはただのひ弱な女性、魔獣に抵抗できるはずもない。
「ぐわぁああうっっ」
穴から飛び出してくるや、獣はエカテリーナに飛びかかってきた。
為す術もなく押し倒された乙女の首筋に獣は鼻面を突っ込み、べろべろと白い喉をねぶり上げる。獣の匂いと口臭に魔界の皇女は顔をしかめる。
「や、やめ……離れなさい、このケダモノ……ッ」
ビビイッッ。ドレスの襟元が大きく裂け、白く丸い乳房がまろび出る。獣は乳房を甘噛みし、ざらざらした舌がニップルをねぶり回すと、エカテリーナのうなじがぞくりとざわめいた。
「ひんっ……!」
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