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「斗真、ちゃんっ……い、今助けるからね」
二歩、三歩。たち込める臭気に眉をひそめながらギアムへと近づいた時点で、自らの脚が震えていることに気づく。目前の異形の姿が生理的嫌悪感を催すこともあったが──大部分は彼を救えなかった時の喪失感と恐怖から来る、竦みだ。
「そら。早くせねば、その欲深い男はどんどんと性欲を溜め込んでしまうぞ?」
「くっ……」
そんなことはわかっている。メルコールが真白に手を出さないか睨みを利かせながら、また一歩。
──ぶぢゅりゅるるっ!
「ふぇ……ひゃぁぅ!? と、斗真ちゃっ……やっ!」
五歩進んだ時点で、辛抱たまらなくなったらしい異形の口ひげ部分よりの一斉噴射を目の当たりにし。とっさに身をよじってじかに浴びることだけは避けられたものの、驚きと同時に嫌悪の声を漏らしてしまった。
「ま、待って斗真ちゃん。すぐに行くっ、んぶ! い、今行くからぁっ……う、うぅぅ……」
唇にまで飛来した汁気が、数滴。口の中に垂れて溶け入り、強い苦みが舌を焼く。初めて真白の襲撃を受けた際に味わった触手のものよりずっと濃い、一度味わったら忘れえぬ忌まわしい味わいが喉元にへばりつき、胃袋へとゆっくり、一滴ずつ。ボタ、ボタと重たい衝撃を伴って垂れ落ちる。
「んくっ……に、がい……。の、喉に絡むよぉ」
それでも極力手で拭い、すでに口内に滴った分はどうにか嚥下して、ようやく深緑ギアムの傍にまでたどり着いた。
(どれから……し、してあげたら)
正面せいぜい三十センチほど先の場所で無数の触手が刺激を求めてうねり狂い、一部はビタビタと石畳を叩いて催促を繰り返している。 |
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