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粘獄のリーゼ
小説:黒井弘騎 挿絵:楠木りん
 

「はぁ、思い出したらまたムカついてきたわ! あのスライム、ここを抜け出したら今度こそ……っく、うぅ!」
「発奮なさるのは結構ですけれど……ふぅっ! 狭いので、あまり暴れられると……ふぁ、こ、擦れて……」
「そ、それは……はうぅっ。わ、わたしだって同じよ……も、もう……!」
 肉牢内部は、人間一人でいっぱいになってしまうほどに狭苦しい。そんな狭所に二人一緒に落ちてしまったリーゼと光流は、お互いの肢体をぎゅうぎゅうと押し付け合う、完全密着状態で押し込められてしまっていた。
 二人はそれぞれ膝立ちの状態で、両手は腰の後ろで触手拘束されてしまっている。正面から抱き合うように身体を寄せ合わせざるをえず、互いに譲らぬ巨乳がむにゅむにゅと肉を押し付け合って撓んでいた。体温がわかるほどの密着距離、もがけばもがくだけ乳鞠同士が擦れ合い、スーツ越しに柔らかくも豊満な肉感が伝わってくる。
「ちょっ……あ、あんたこそそんなに動かないでよ。そ、そんなに動かれると……ふあ、く、んん……!」
「リ、リーゼ様こそ……少し大人しくしていてくださいませ。胸の大きさぐらいしか誇るところがないのはわかりますが、このように押し付けられては……はぁ、は、あ……あっ!」
「だ、誰が胸だけよ! あんたこそ大人しくしてなさいよ、こんな拘束、すぐに解いて……っく、うぅ〜!」
 罠に嵌まってしまったとは言え、イバラの姉妹の身体能力なら、この程度の拘束を解くことなど難しいことではない。だがそれも、尋常に四肢を伸ばし動かせる余裕があってこそだ。ほとんど身じろぐことさえできない肉牢内部では、触手拘束を解くどころか、指一本さえ動かせないのが実情だった。
「光流! そんなに言うなら、あんたお得意の術でなんとかならないの?」
「あらあら、これは異なことを。たった今、この程度の拘束、簡単に解けると伺ったのですがわたくしの気のせいでしたでしょうか?」
「そ、そんなのどうでもいいでしょ! できるの、できないの!?」
「……わかりましたわ。わたくしもこのような不快な場所はもう限界ですもの。しかし、そのためにはしばし精神の集中が必要です。ですからリーゼ様、非常に申し上げにくいのですがしばらく静かにして頂けると……」
「ぐっ……わ、わかったわよ! 仕方ないわね、それじゃ……黙ってるわ」
 光流の言葉に従うのは屈辱の極みだったが、それがもっとも効率が良いのでは仕方がない。それに、確かにもがくほど身体が擦れ、精神も体力もすり減ってしまうのは事実なのだ。
「…はぁ、はぁ、はぁ………っん…」
「すぅぅぅ……ふっ……く、ん……」
 しばしの沈黙。だが何もしなくても、この淫気に満ちた空間にいるだけで肉体も精神も苛まれてしまう。肌に粘り付くようなじめじめとした湿気に、ヌルヌルと蠢く不気味な壁面。まさしく生物の内臓を思わせる不快さの上、互いの体温が伝わってしまうほどに狭隘すぎるのだ。僅かに身じろぐだけでも媚肉と柔肉とが擦れ合い、零れた吐息が互いの顔にふきかかる。
(な、何なのよこの状況。光流と二人っきりでこんな……胸が擦れて、へ、変な気分になっちゃうじゃないの……)
 気まずさを伴う、奇妙な空気が流れる。少しでも動揺すれば、密着した乳房の柔らかさだけでなく、心臓の鼓動までもが伝わるような気がして、ただでさえ暑苦しい中で余計に身体が火照ってしまうのだ。

 
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