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邪悪な魔王が
伝説の女勇者に転生したようです
小説:酒井仁 挿絵:笹弘
 

「………………」
 無言でかざした少女の手に魔力の光が宿る。
 だがシュシュの攻撃魔法を見慣れたティナの目から見ても、その魔力収束はお世辞にも素早いとは言えない。
 もたもたしているうちに、別の魔物がシュシュの足首に触手を絡ませ始めている。
「どうした、この魔導書がないと魔法もおいそれとは使えなさそうだな、シュシュ」
「……………………」
 ぼひゅっ、と撃ち放たれた魔力弾が、触手の塊を打ち砕く。
 その一撃で蛇玉の動きが一気に激しくなる。
 一匹倒せば二匹が這い寄り、二匹倒せば四匹が群がってくる。
 無力な少女はたちまち触手玉に絡め取られ、地面に引き倒されてしまう。
「そいつらはそれほど凶暴な魔物じゃない。魔導書なしのお前でも、魔力を使いきればどうにか逃げきれるだろう」
 無論、魔導書を返すつもりはさらさらない。
 ひょいひょいと触手をかわしながら、自分だけ湿地帯から逃げ出そうとしている。
「そらそら、魔力の出し惜しみなどしている状況ではないぞ……ク〜ックック! ではさらばだ、幼馴染み殿!」
 すちゃ、とおどけるように敬礼をし、ティナはシュシュを残して逃走に転じる。
 シュシュは魔力弾の生成に追われ、とてもティナを追いかけるどころではない。
「ウィルとジジイによろしく言っておいてくれ! 私は一人で旅を続けるからってな!」


 
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